top of page
scale.jpg

曲面のメカノバイオロジー

山下研究室では、メカノバイオロジーと呼ばれる学問領域で、細胞が周辺環境の緩やかな形状を認識し、その行動を決定する制御機構を明らかにする研究に取り組んでいます。

従来、細胞は平坦な皿の上で培養され、その機能や性質が詳細に調べられてきました。ところが、私達の身体を顕微鏡で詳しく見てみると、平坦な面の上に存在している細胞は全くと言って良いほど存在しません。血球などの浮遊性の細胞を除いて、どの細胞も必ず、他の細胞や様々なタンパク質に三次元的に取り囲まれているか、あるいは複雑な形状を持つ足場(骨など)の上に接着しています。そして、私達の身体は、様々な機能を果たすために様々なスケールで調和のとれた形に整えられ、小さな傷であれば、損傷しても自然と元どおりの形に修復されます。

マクロな視点で見ると、生き物の体が自然と形作られ、傷ついても治癒する現象は当たり前のように見えます。しかし、よくよく考えると、0.1mmにも見たない細胞達が、はるかに大きな個体の「あるべき姿」を規定し、それを維持するために行動している、というのは驚くべきことです。そこにどのような法則が存在するのか?どのような制御機構があるのか?実はその詳細はいまだに分かっていません。

そこで私達は、特に「曲率」という幾何的なパラメータに注目して、細胞が周辺の形状をどのように認識し、行動を決定しているのか、その仕組みを様々な視点から研究しています。曲面を作り出す技術や材料を開発し、その上で細胞が示す振る舞いを観察し、モデル化することを目指しています。このような知見を蓄積し、将来再生医療で臓器を作る際に「このような形状を設計すれば、細胞が目的の臓器を作ってくれるだろう」と予測できる、設計指針を打ち立てることを目標にしています。

もの作り、エンジニアリングに立脚した新しいライフサイエンスを目指し、私達は現在以下のような研究テーマに取り組んでいます。

  • マイクロ曲面細胞培養技術の開発

  • 細胞の曲面認識機構の解明

  • 細胞集団の変形挙動のモデル化

  • 機能性ハイドロゲルの開発

マイクロ曲面細胞培養技術の開発

曲率が細胞の挙動に与える影響を詳細に解析するため、マイクロ加工技術を駆使して、曲率半径数百µm〜数mmの滑らかな曲面を作り出す方法を研究しています。曲面や、滑らかな縁を持つ平面など、様々な"曲がった"培養環境を作っています。ただ滑らかな培養場を作り出すだけではなく、その上で細胞が示す各種の力学特性(収縮力、接着強度など)を計測することができる、新しいマイクロ細胞培養デバイスの開発を目標としています。

research1.jpg
research2.jpg

細胞の曲面認識機構の解明

個々の細胞が、接着面のごくわずかな曲率を認識し、その行動を変えるための分子的な制御機構は、いまだにその全容が未知のベールに包まれています。私たちは、生体内で管状の構造を形作る血管平滑筋細胞をモデルに、培養面の曲率が細胞の性質の切り替えに与える影響を調査し、制御の鍵となる分子を同定することを目指しています。各種の細胞培養技術や観察手法、遺伝子組み換え技術などを使って、様々な角度から細胞の特性を解析します。

細胞集団の変形挙動のモデル化

生体外で細胞から臓器を構築するために、培養材料・培養容器が提案されてきましたが、具体的に「どのような形状を設計すれば細胞が望みの形状・構造を持ったを組織を形成してくれるか」という設計の指針が見つからず、世界中で試行錯誤が続いています。私たちの研究室では、曲面培養で得られた細胞挙動に関する知見をモデル化し、様々な幾何的制約の下で細胞が取る挙動を予測するフレームワークを作ることを目指しています。

research3.jpg
research4.jpg

機能性ハイドロゲルの開発

従来、プラスチックをはじめとする様々な「硬い」材料を使って、生体外での細胞培養が行われてきました。細胞がより生体に近い環境で、その形状認識機能を最大限に発揮し、目的の性質を発揮できるようにするため、より「軟らかい」培養材料の開発に取り組んでいます。細胞の力を可視化する、特定の機能を増強する、といった様々な機能をハイドロゲル材料に付加することを目指しています。

bottom of page